元花形特急「光華号」東急車両のステンレス製 |
乗った人の感想
2014年に営業運転を退いた台湾鉄路管理局の元花形特急列車「光華号」DR2700型気動車が、登場から間もなく50周年を迎えるのを前に、10月29日に復活運転をすると聞き、乗ってみた。台北から台中、高雄を経由して台東まで、およそ9時間かけて走破。長い残暑を終え、ようやく本格的な秋が訪れた台湾の鉄道風景を楽しんだ。電化前、最速の特急
光華号は、1966年10月31日に西部幹線を結ぶ特急列車として登場。東急車両製のステンレス車で、台北−高雄間を当時最速の4時間45分で結んだ。今でこそ特急プユマ(普悠瑪)号が同区間を最速3時間40分で駆け抜けるが、50年前の非電化区間を走る気動車としては十分なスピードだ。ただ、空調設備はなく、厳しい台湾の暑さをしのぐには、天井に設置された扇風機に頼るか、車窓を開ける以外に方法はない。
台北駅には報道陣のほか大勢のファンが詰めかけた |
記念切符などがセットになった乗車券は発売当日に完売する人気に。台北駅のホームには久しぶりの雄姿を一目見ようとカメラや携帯電話を構えた多くのファンや報道陣が詰めかけた。乗降口には低いホームからも乗車できるようにステップが設けられているが、現在台鉄のホームはバリアフリーの一環でかさ上げされており、落とし穴のような大きな段差が生じてしまったのにも時代の変化を感じさせる。
深緑色のシートは、リクライニングがなかったり、壊れたものもあったが、座面はふかふかのクッションが効いており、まずまずの座り心地。列車は午前9時20分、「ゴゴゴゴ」と重低音を唸らせ、多くの人に見送られながら台北駅を出発した。ここから新北市の浮洲まで地下区間が続く。窓が全開になっているのもあるが、けたたましいエンジン音が耳をつんざく。風も絶えず吹き付けるため、車内環境はお世辞にもいいとは言えないものの、ひんやりとした秋風が気持ちいい。
「窓が開く列車が好きなんだ」。そう語るのは隣の席に乗り合わせた卓弘哲さん(38)。光華号の営業運転終了間際には、毎週末台東や花蓮に足を運んでその姿を記録した。「空調が効いた列車の車窓は、家でテレビを見てるのと変わりない」。なるほど、車外の空気や音を感じてこそ、鉄道の旅の楽しさが増えるというものだ。2台のカメラを駆使し、貴重な瞬間を逃さまいと奮闘していた。
一路南へ 健脚は健在
列車は桃園で一旦停車し、車内を取材していた一部の報道陣が下車。その後、中レキや新竹など主要な駅も通過し、一路南へ。乗客たちは配られた駅弁に舌鼓を打ったり、車内を思い思いに歩き回り、しきりにシャッターを切る。その場でフェイスブックに思い出を投稿するのは、現代ならではの旅行の楽しみ方だろう。乗客には家族連れの姿も。学生時代に中レキから台北までよく乗車したと話す鉄道ファンの男性は、子供を連れて家族で乗車。「鉄道が好きなこの子にも乗せてあげたくて」。思い出が詰まった鉄道の魅力を世代を超えて伝えられるのも復活運転の醍醐味かもしれない。
鉄道グッズを売る車内販売も盛況。 女性アテンダントが着用しているのは今回特別に作製された復刻版制服 |
苗栗県の三義からは山越えに挑む。エンジン音はこれまで以上に大きくなり、必死に坂道を駆け上がる。「がんばれがんばれ」。思わず応援したくなる。后里から烏日までは先月に高架化されたばかりの新線を走った。現役時代には走ることのなかった区間。真新しい台中駅に列車が滑り込んだ光景は大勢の人の注目を集めたようで、到着を待ち構えた大勢のファンだけでなく、駅で電車を待っていた一般の利用客も、携帯電話を片手に見慣れない列車をカメラに収めていた。
北部は肌寒く感じられる気温だったが、中部に入ると気温は上昇。だが、前述の通り空調設備はない。額が汗ばむ。真夏の車内はサウナと化していたのは想像に難くない。普段冷房がキンキンに効いた台湾の鉄道に乗りなれていると、どれだけ快適なことだったのだろうとありがたみさえ感じる。だが、ここはじっと我慢だ。
彰化では運転士と車掌の交代のため停車。当初は台北を出発すると台南まで停まらなかった列車もあったというから乗務員や整備士らの苦労は相当なものであっただろう。一方、車内では光華号運行当時の運転士や女性アテンダントも登場。笑顔で記念撮影に応じるなどした。また、乗務員がコップにやかんの水を入れるサービスを再現する場面もあり、揺れる車内での華麗な手さばきに拍手が上がった。また、鉄道グッズの車内販売も行われたが、光華号のNゲージ模型は早々に売り切れる人気に。通路を挟んで反対側に座っていた男の子は父親にプユマ号の模型を買ってもらい、「ご満悦」の表情を浮かべた。
台湾海峡に沈む夕日 |
花形特急の魅力 いつまでも
台東には午後6時30分過ぎに到着。対向列車との待ち合わせで約10分遅れたが、光華号自体はトラブルに見舞われることなく、健脚ぶりをまざまざと見せつけた。快適とは程遠い乗り心地だったが、台湾の経済発展を支え、多くの人の記憶に刻まれた名車の雰囲気を存分に味わえたのは、価値ある体験だった。台鉄では今後も動ける状態を維持する動態保存を続ける考え。これからもイベントなどで鉄道の魅力や発展の歴史を多くの人に伝えてほしいと感じた。